拝啓 沢木耕太郎さま 〜19の君へ〜

誰しも、忘れられない、人生の指針となる本があるはず。その本に出会ってしまって、人生変わった、みたいな。

僕にとってそれは沢木耕太郎著『深夜特急』。

HISさんに始まった格安航空券によって、海外へのアクセスも良くなって、たくさんの海外旅行ノウハウの詰まったブログもたくさん開設されて、インターネットで情報もたくさん得られて。でも、20年前のあの頃、1990年代のバイブル、海外への憧れを抱かせるのは、沢木耕太郎の深夜特急1巻から6巻。

若かりし沢木氏が、香港〜マカオ〜マレー半島を経て、ニューデリーからロンドンまで乗合バスで向かう紀行文。今更解説の必要もなし。引用する必要も無し。

19の僕は暗く、長い浪人生活を送っていた。来る日も来る日も代ゼミに向かい、ひたすら大学に受かるために英語と国語と社会(日本史)をカリカリカリカリ勉強(暗記)。これは何に役立つのか、なんてことを考える余裕もなく。

そんな僕を不憫に思ったのか、母親が買ってきた本、それが深夜特急1巻2巻。何気なく手に取った本が、人生の転換期になったこととは、当時は全く思ってない。神奈川の片田舎で、一冊の本によって、はじめて「世界」に触れた気がする。

3歳から続けてきたスポーツに限界を感じていたあの頃、何度も、何度も擦り切れるほど読んだ『深夜特急』。擦り切れるくらい読んじゃうくらい、単調な生活だったんだろうな、刺激が欲しかったんだろうな。

あの本が、大学での目標を決めてくれた。

  1. フランスワールド杯観戦(これは関口房朗さんのおかげ、また別記事で書きたい)
  2. 中国2人旅(大阪南港から天津への船旅、これも書きたい)
  3. マレー半島縦断2人旅(これはCherのBelieveなしでは語れない)
  4. 中国一人旅(憧れの雲南。大理、麗江の思い出)
  5. 西欧州・アフリカ一人旅(そういやアフリカ大陸モロッコに、足を踏み入れてたわ)

大学生の頃は、塾の先生やって、稼いでは旅行に、稼いでは旅行に行ってた。ありがたいことに、大学の恩師のおかげで、勉強の意義、学ぶことの面白さも学んだけど、でもやっぱりバックパッカーの真似事してたあの時の経験が、今の自分を支えてる。

拝啓 沢木先生

あの頃、20年前、下を向いて生きる意義を失っていた若者が、四十路になって、なんだか知らないけど、アフリカで暮らしています。元気にやってます。

タイのビーチで、朝散歩してたら、仕事帰りの女装が好きそうな男性に、ハシシやるから寝てくれ、と追いかけられました。私は残念ながらそっちの気はありません。

マレー半島、マラッカで雄大な太陽を追って走りましたが、飲み過ぎて走れず、見逃しました。今は自分の貨物を乗せた船が、マラッカ海峡を通り、アジアに向かってます。海賊が怖いです。

シンガポールは、あの頃と大きく変わりました。マーライオンは、あの頃眺めることができた水平線を、今やマリーナベイサンズに遮られ、寂しそうです。

中国・桂林で三峡下りして、水墨画のような小さな街で自転車借りて、ガイドしてくれたねーちゃんを信頼しすぎてカバンを渡してしまい、2万円盗まれました。生活が苦しくなったので、マカオで大小に有金全て(2000円)注ぎ込んで、勝ちました(16000円)。その金でマカオで一番流行ってる髪型、色にしてくれと言ったらど金髪になりました。帰国後、母は卒倒しました。塾の生徒の親御さんたちからのクレームが凄かったです。

どうしても春節のこの時期は行けない、と言われた雲南省へ、どうにか考えたあげく、広州から深夜バスで南寧経由、昆明行きのチケットが取れました。これは私にとって、最大のプラチナチケットでした。ともすれば、日本VSアルゼンチンのチケットより嬉しかった。でも中国の深夜バスは、それはもう臭かったです。オッサンと添い寝の数日を過ごしました。

ポルトガルのサグレスにも行きました。沢木先生が宿泊された、坂の途中にあるホテルにも泊まりました。「なんか、汚ねえ格好したアジア人が、その本持って良く来るんだよな」とホテルの主人が苦々しく言っていたので、全部説明してやりました。そのオヤジがご存命であれば、あれ以降は、日本人の夢を持った若者を笑顔で迎えているはずです。

バスに乗り遅れて、ヒッチハイクしてサグレスからラゴスに移動しました。あの時の日記に大きく書いた『LAGOS』という文字、今では頻繁にナイジェリアの首都として、打ち合わせで頻繁に話が出ます。

今は、海外で働くという夢を叶え、アフリカの大地で奮闘しています。あの時の経験があって、今があります。本当に感謝しています。

私の夢は、あの時、貧乏な僕を可愛がってくれた、世界各地でお世話になった皆様に、もう一度会いに行き、お礼をいうことです。あの時撮った、沢山の写真がまだ実家にはあります。それを見せながら、当時のかた、そのお子様に、お礼を伝えるのが夢です。

その時は、また必ず沢木先生の、ボロボロになった本を片手に、旅するつもりです。

敬具